●ワインマスター塾(食卓で楽しむワインと料理
       〜相性のピタピタ原則〜 【1】)
渡辺正澄
 

 最近、おいしいワインが手ごろな値段で市場に出回り、家庭でワインを愛飲する人が増えています。しかし、ワインは本来、単独で味わうものではなく、料理とあわせてこそその味香の特徴が発揮されるものです。ワインと料理は二人三脚ともいうべきもので、この二つがピタピタと合ったとき、食卓の楽しみはさらに増してきます。

<ワインは適温を知って美味しく飲もう>

 ワインが美味しく飲める温度(飲用適温)は、白が5〜12℃の範囲、赤なら10〜18℃の範囲にあり、それぞれのタイプによってその飲用適温は違ってきます。また、同じワインでも、温度が変われば味わいも微妙に変わります。
 このような違いは、それぞれのワインに含まれる主要な化学成分の相違によって生じます。この点に着目して、全てのワインを次の3つのタイプに分けました。

(1)冷旨系(冷やすと旨いワイン)
(2)温旨系(室温ぐらいで旨くなるワイン)
(3)中間系(ほどほどに冷やすと旨いワイン)

・冷旨系ワイン(ドイツワイン、国産の甲州などの白)
 これらのワインは、原料ブドウ果の酸味(リンゴ酸、酒石酸)をそのまま引き継いでいます。ブドウを冷やせば美味しくなるのと同じで、リンゴ酸を多く含むワインは、5〜7℃で飲むとたいへん美味しく味わえます。「ワインと料理の相性表」では左側に位置します。

・温旨系(ボルドー、ブルゴーニュなどの本格的赤)
 これらのワインは、醸造過程での乳酸発酵の結果、リンゴ酸がほとんど乳酸に変わります。乳酸はお燗しておいしい清酒に多く含まれている酸味で、温めると美味しくなります。また、長期熟成用に樫樽を使いますので、樽からタンニン(渋味・苦味成分)が溶け出します。乳酸やタンニンとも室温に近い温度でまろやかな味わいとなりますので、このタイプのワインは、16〜18℃で飲 むと旨くなります。「ワインと料理の相性表」では右側に位置します。

・中間系(ボージョレ・ヌーボーなどの軽い赤や、ブルゴーニュのコクのある辛口・白など)
 これらのワインは、醸造過程での乳酸発酵を温旨系ワインのほぼ半分程度しか行いませんので、冷旨系ワインに多いリンゴ酸と温旨系ワインに多い乳酸をほぼ半分ずつ持っています。このため、中間系ワインの飲用適温は冷旨系と温旨系のちょうど真ん中の12℃くらいになります。

「ワインと料理の相性表」

 ワインと料理の相性は、基本さえ覚えてしまえば、そう難しい ものではありません。その基本の目安としてまとめたものが「ワ インと料理の相性表」です。この表の根底にある考え方は以下の 通りです。

<ワインと料理とが「合う」ということは?>

 料理といっても、重要なのは食材と調味料。両者の組み合わせ とワインとが相性表上の同じ縦軸に並べば、それは最も素直に合 った場合です。もし、食材とワインとが多少ずれた場合でも、調 味料が調整役として働き、ワインとよく合ってきます。よく合っ た時にはワインと料理が溶け合い、一段上の新しい旨味が作り出 され、陶然とした気分になります。

 それでは、以上簡単に述べました「相性のピタピタ原則」にも とづいて、今回は、サンマをテーマにしてワインとの相性関係を解説 していきます。

 「目黒のサンマ(落語)」や「秋刀魚の歌(佐藤春夫の詩)」 などで親しまれているサンマは最も庶民的な魚の一つです。

 さて、サンマは日本の太平洋沿岸沖の水温14〜15℃のところ を求めて移動する回遊魚です。8月ごろ、北海道の東方沖にたむ ろしていた若いサンマの多くは、9月に入ると、本州太平洋近海沿いに、産卵のため大群をなして南下を始めます。途中、プラン クトンを盛んに食べて成長し、三陸沖〜鹿島灘〜房総沖〜和歌山 沖あたりまで南下が及びます。

 このように、サンマは卵を産みながら移動しますので、獲れる 時期によって体の栄養状態(油分*1の乗り具合など)が大きく 変わってきます。つまり、8月に北海道沖で獲れるサンマの油分は、10%くらいしかありませんが、鹿島灘から房総沖で9月中旬 から10月頃にかけて獲れるサンマの油分は約20%と増してきます。 ちょうど、この頃が産卵期に当り、これが「旬のサンマ」で、 たいへん美味であります。産卵をすませると、サンマの油分は再 び減りはじめ、12月頃に和歌山沖で獲れるサンマは、その油分が 5%くらいに減り、味も淡泊となり、すしなどに加工されます。

 今回は、10月頃の「旬のサンマ」を対象にして、相性のピタピ タ原則にしたがって述べてみましょう。

 さて、「旬のサンマ」は、油分や旨味成分をたっぷりと含み、 かなりコクがあります。前記の相性表では、18℃付近に相性軸を 持つ、温旨系食材です。
 ある年の10月、銚子漁港近くの鮨屋で食べた超新鮮のサンマの 刺身(ワサビ醤油)」のおいしさは、今もって忘れられません。 油分と旨味成分の多いサンマの刺し身は、温旨系調味料の辛口 醤油と一体となり、その上、刺激味のあるワサビが香りと味わいを いっそう深めながら、サンマの魚臭を打ち消したからです。
 ところで、この「サンマの刺身(ワサビ醤油)」とよく合うワインは、ブルゴーニュのコート・ド・ニュイの赤などの、17℃前 後に飲用適温をもつ温旨系辛口・赤ワインです。

 いよいよ、「サンマの塩焼き(レモン醤油)」の解説に入りま す。まず、旬の生サンマを焼く前に、必らずやや強めのふり塩をし ます。これには2つの効果があります。第一に、塩をふることで 魚肉を食塩で固め、焼いたときに身崩れが起きないようにするこ と。第二に、塩の強い浸透圧により、サンマの細胞内から生臭み 成分(トリメチルアミン)などが吸い出されること。さらに、焼 くことによってサンマの油分や乳酸等がいくらか取り除かれます。 つまり、「サンマの塩焼き」は、前記の「新鮮なサンマの刺身( 生サンマ)」より、ややさっぱりとした味わいとなります。相性 軸は、やや左側へ移動し、ほぼ16℃付近に位置付けられます。
 さて、この焼きたてのサンマの身をほぐし、これにレモン醤油 (普通の辛口の醤油に、同量のレモン汁をしぼったもの---中間系 調味料)をかけますとサンマの焙焼臭もかなり消え、その味わいは 一段とさえてきます。
 それと同時に、レモン醤油の効果で相性軸はさらに左側に移動し、14℃前後のところに落ち着きます。そして、ちょうどこの付近に 飲用適温を持つ中間系辛口赤ワイン(たとえば、カベルネ・フラン 100%のソミュール・シャンピニーなどの、軽い赤)にピタピタと合います。

以上述べてきましたサンマとワインの相性関係を図表化すると、 下記のようになります。

いかがでしたでしょうか。まだまだ書き足りないこともあります。
次回もどうぞお楽しみに。

*1 魚油などのように、常温で液体の油脂分を「油分」と書き 表し、バター、ラード、ヘットなどのように常温で固体の油脂分 は「脂分」又は「脂肪」と書き表します。





株式会社ワイン総合研究所